私たちが普段服用している医薬品の多くは、錠剤やカプセル剤などの経口固形製剤です。
ドラッグストアで販売されている一般用医薬品(OTC医薬品)や、病院・薬局で処方される医療用医薬品の多くが経口固形製剤であり、日々大量の製品が製薬会社で製造されています。
しかし、一見シンプルに見える錠剤も、実際には多くの製造工程を経て作られています。また、医薬品である以上、「作ること」が目的ではなく、高い品質と安全性を維持したまま安定して生産することが求められます。
この記事では、経口固形製剤の基本から、錠剤ができるまでの製造工程や使用される設備について、初心者にもわかりやすく解説します。
経口固形製剤とは
経口固形製剤とは、口から服用する固体状の医薬品のことを指します。
代表的な経口固形製剤には、以下のようなものがあります。
- 錠剤
- カプセル剤
- 顆粒剤
- 散剤
これらの中でも、錠剤は代表的な経口固形製剤の一つです。製品によっては、一度の製造で数百万錠単位が生産されることもあります。
経口固形製剤の特徴
経口固形製剤には以下のような特徴があります。
- 持ち運びしやすい
- 品質が安定しやすい
- 大量生産に適している
- 用量を正確に管理しやすい
このようなメリットがある一方で、粉体を均一に混合し、安定した品質の錠剤を製造するためには、高度な製剤技術が必要になります。
経口固形製剤ができるまでの製造工程
錠剤は、一般的に以下のような流れで製造されます。

実際の製造工程は製品によって異なります。
例えば、湿式造粒では「乾燥」「整粒」工程が追加されます。また、カプセル剤では打錠ではなくカプセル充填工程が、顆粒剤や散剤では包装工程へ進むなど、剤形によって工程は変化します。
本記事では、経口固形製剤の基本となる錠剤製造の流れを中心に解説します。
秤量
秤量とは、有効成分(原薬)や添加剤を、決められた量だけ正確に量り取る工程です。
医薬品は人の健康に直接関わる製品であるため、わずかな秤量ミスでも品質や有効性、安全性に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、有効成分が規定量より多ければ副作用リスクが高まり、少なければ十分な薬効が得られません。
そのため製薬会社では、電子天秤やバーコード管理システムなどを用いて、「誰が」「何を」「どれだけ秤量したか」を記録しながら作業を行っています。
造粒
造粒とは、粉末を適切な大きさの粒(顆粒)へ加工する工程を指します。
粉体の流動性が低いと、打錠機へ原料を供給するホッパー内で粉体がブリッジ(架橋)を形成し、原料が安定して供給されなくなることがあります。その結果、錠剤重量のばらつきや生産性の低下につながる可能性があります。
造粒を行うことで、粉体の流動性や打錠性を改善し、安定した製造につなげることができます。また、粉塵の飛散を抑えたり、原薬と添加剤の偏析を抑制したりする目的で行われることもあります。
食品分野でも粉体の流動性を改善するために顆粒化技術が利用されることがあります。例えば、振って使いやすいタイプの小麦粉や片栗粉なども、粉体の取り扱いやすさを向上させる工夫が施されています。
湿式造粒・乾式造粒
湿式造粒は、水や結合剤を加えて粒を形成する方法で、多くの医薬品に採用されています。以下の動画では、造粒設備の動作や工程の様子を確認できます。
一方で、熱や水分に不安定な原薬には、水や液体を使用しない乾式造粒が選択される場合があります。乾式造粒では、原料を圧縮して固めた後、適切な大きさの顆粒に加工します。
混合
造粒や乾燥、整粒を終えた顆粒は、滑沢剤を加えて「混合」が行われます。
滑沢剤には、顆粒の流動性を向上させることに加え、打錠機の杵(きね)や臼(うす)への付着を防ぐ役割があります。また、打錠時の摩擦を低減することで、安定した製造にも貢献します。
混合工程には、V型混合機やコンテナミキサーなどが使用され、製品ごとに設定された混合時間や回転速度で実施されます。
ただし、滑沢剤は「多く混ぜれば良い」というものではありません。
混合が不十分であれば滑沢剤が均一に分散せず、打錠時のトラブルにつながることがあります。一方で、混合しすぎると顆粒表面が滑沢剤で過度に覆われ、錠剤硬度の低下や溶出性に影響を与える場合があります。
打錠
打錠とは、顆粒を圧縮して錠剤の形に成形する工程であり、製薬会社では、高速で大量生産が可能なロータリー式打錠機が広く使用されています。
しかし、単純に圧力をかければ良いというわけではありません。
打錠圧や打錠速度、顆粒の性質などの条件が適切でない場合、次のような製造トラブルが発生することがあります。
- キャッピング(錠剤上部が割れる現象)
- ラミネーション(錠剤が層状に割れる現象)
- スティッキング(杵に粉末が付着する現象)
これらのトラブルを防ぐため、製剤研究では処方設計だけでなく、造粒条件や打錠条件も含めて最適化を行います。
コーティング
打錠後の錠剤には、製品の目的に応じてコーティングが施されます。
コーティングとは、錠剤表面に薄い膜を形成する工程であり、以下のような目的で実施します
- 苦味やにおいのマスキング
- 湿気や光からの保護
- 錠剤の外観改善
- 薬の放出性を制御(腸溶錠など)
現在は、薄い高分子膜を形成するフィルムコーティングが主流であり、多くの医薬品に採用されています。
包装工程
包装工程として、代表的なのがPTP包装です。
PTP包装は、錠剤をプラスチックシートとアルミ箔で密封する包装形態であり、多くの医療用医薬品や一般用医薬品で採用されています。
包装には、単に製品をまとめるだけではなく、
- 湿気や光からの保護
- 品質維持
- 異物混入防止
といった重要な役割があります。
また、製造番号(ロット番号)や使用期限などの情報が、包装資材に表示・印字されます。
医薬品の品質は製剤だけで決まるものではなく、適切な包装によって患者さんの手元に届くまで維持されます。そのため、包装工程も医薬品製造において欠かすことのできない重要な工程です。
直接打錠法
ここまで紹介した製造工程では、造粒工程を経てから打錠する方法を中心に解説しました。
一方、すべての錠剤が造粒工程を経て製造されるわけではなく、原薬と添加剤を混合した後、造粒工程を行わず、そのまま打錠する直接打錠法(直打法)という製造方法も存在します。
造粒工程や乾燥工程を省略できるため、
- 製造工程の短縮
- 製造コストの削減
- 設備負荷の低減
- 製造リードタイムの短縮
といったメリットがあります。
そのため、製造現場にとっては非常に魅力的な製造方法ですが、すべての医薬品に適用できるわけではありません。
直打法は造粒を行わないため、原薬や添加剤には十分な流動性や圧縮成形性が求められます。また、粉体の偏析が起こりやすく、含量均一性を確保することが難しいケースもあります。
製剤研究者に求められる視点
製剤研究では、「品質の良い錠剤を作ること」だけが目的ではありません。
実際に工場で安定して製造できること、生産性が高いこと、品質を維持しながら安定供給できることまで考慮して処方や製造方法を設計する必要があります。
例えば、研究室では問題なく製造できる処方であっても、工場の大型設備へスケールアップした際に製造トラブルが発生することがあります。
そのため、製剤研究者には原薬や添加剤の特性だけでなく、製造設備や製造現場の運用まで理解した上で開発を進めることが求められます。
製造現場が求める「製造しやすい処方」と、患者さんが求める「高品質な医薬品」を両立させることが、製剤研究者の重要な役割の一つです。
このような視点を持つことは、CMC部門や製造技術部門と連携する上でも大きな強みになります。
まとめ
経口固形製剤は、秤量、造粒、混合、打錠、コーティング、包装といった複数の工程を経て、高品質な医薬品が製造されています。
それぞれの工程には品質を確保するための重要な役割があり、一つひとつの工程が最終製品の品質や患者さんの安全性につながっています。
製造工程そのものは大学で学ぶ機会があるかもしれませんが、「なぜその工程が必要なのか」「製造現場ではどのような課題があるのか」まで理解することで、製薬業界への理解はさらに深まります。
特に、CMCや製剤研究・製造技術などの職種を目指す方は、自分が設計した処方や製造条件が工場でどのような影響を与えるのかを意識することが重要です。
研究開発と製造現場は、それぞれ独立しているように見えて密接につながっています。製造しやすく、高品質な医薬品を安定して患者さんへ届けるためには、幅広い視点を持って製剤開発に取り組むことが求められます。
この記事が、経口固形製剤の製造工程や製剤研究の役割を理解するきっかけになれば幸いです。